第一種永久機関で世界征服は可能か?~熱力学第一法則から見てみよう~

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文責:ちくわぶ

どうもこんにちは、ちくわぶです!

突然ですが、みなさんは世界征服をしたくありませんか?

フィクションの世界では、世界を得ようとする人々がたくさん出てきますが、この広い世界を我が物にする、なんと素晴らしいことでしょうか……

なにをもって世界征服とするのかは人それぞれですが、私はそのうちの一つに「エネルギーの独占」があると思っています。

しかし、私たちがここ日本で地面を掘っても石油を湯水の如く得ることはできず、原子力は我々が個人で扱うには危険すぎます。

そこで、無尽蔵のエネルギーを得る方法として、古代・中世の人々を魅了させた『第一種永久機関』について考えます。

第一種永久機関とは

第一種永久機関第一種永久機関とは、燃料を入れることなく、エネルギーを生み出す機構のことである。

上に第一種永久機関の定義を示しました。ご覧の通り、第一種永久機関とは、燃料を入れることなく、エネルギー(仕事)を生み出す機構のことで、永久機関の名の通り、永遠に動き続けます※1

端的に言えば、燃料なしでエネルギーを出せる、無から無限を生み出せる夢のような機械と思ってもらえれば十分です。

みなさんが、“もしも”これを作り出せれば、世界征服に王手をかけられるわけです!

できません、人類には

さて、皆さんはこれを用いて無尽蔵のエネルギーを!!……と思い、早速どうやって作るのか気になっていることでしょう。

しかしながら、目次で察した人もいるかと思いますが、

「第一種永久機関はつくれません!」

何度も試行を重ねれば、いつかは作ることはできるのではないかと考える方もいるでしょうが、ほぼ100%第一種永久機関を作り出せないと断言します。

過去に作ろうとした人々も様々な工夫を凝らして作ろうと試みましたが、これは全て徒労に終わりました。

実は、その原理は、とてもかんたんに説明することができます。
それでは、なぜできないのかを理解していきましょう。

熱力学第一法則について

さて、ここからは、物理(熱力学)を用いて解説していきます。(簡単なので、詳しくない方でも読めるようになっています。興味のある方は、是非とも読んでいただきたいです。)

解説の前に、必要となる情報を補っていきます。

それが、『状態量』という物理量の性質です。

簡単に定義をいうと、「系の平衡状態がこの状態!!! と決まったら、その時に値が1つに決まる物理量のこと」です。

(詳しくは、今後出る予定の記事「熱力学第一法則(仮)」を参考にして下さい。)

聞いたことのないかもしれない用語が用いられていますので、はじめに軽く説明していきます。

・系 : 熱力学で、考察の対象とする部分のこと。境界線で外(外界)と区切っていて、考える対象とする部分ととらえると分かりやすいです。系の外を「外界」という※2

・平衡状態、または、熱平衡状態 : 系を十分に長い時間放置しておくと、巨視的に一定の状態になり、この状態を平衡状態という。(巨視的とは、我々が見える感知できる範囲のことを扱うことで、原子や分子などの微視的な物については考えない。)

それでは、熱力学第一法則を導入していきます。

熱力学第一法則閉鎖系※3において、ある平衡状態から別の平衡状態に移る過程について考える。系が外界から吸収する熱量 \(\textit{q}\) と外界からされる仕事 \(\textit{w}\) の和 \(\textit{q+w}\) は、系の状態のみで決まり、経路によらない(状態量である)。

式で表すと、 \(\varDelta U=w+q\) または \(dU=d’q+d’w\) となります。
ただし、 \(U\) は「内部エネルギー」、 \(w\) は「された仕事」、 \(q\) は「受け取った熱量」です。

経験則的に、内部エネルギーは経路によらないことがわかっている。すなわち、内部エネルギーは状態量になる

これは物理法則なので、今までの経験や計算結果から、このようになっているはずだろうというもので、数学のような証明はないことに注意して下さい。

第一種永久機関の否定

さて、熱力学第一法則の1つの表現

\begin{equation}
dU=d’w+d’q
\end{equation}

を学びましたね。これを言葉で表すと、「内部エネルギー\((\textit{U})\)という状態量は、外からの仕事\((\textit{w})\)と外から受け取る熱量\((\textit{q})\)の和となる。」これを用いて第一種永久機関を否定していきましょう。

では、第一種永久機関が一周する過程を考えていきます。

熱力学第一法則の式を積分して※6

\begin{equation}
\oint dU = q+w
\end{equation}

ここで内部エネルギー\(U\)は状態量であるので、その性質より、積分値は経路に依りません(状態量は系の平衡状態によって決まる)。そして、周回積分(ある状態から出発してその状態に戻ってくるサイクルの積分)では、サイクルの始点と終点が一致します。以上の2つのことから、内部エネルギーの周回積分は下式のようになります。

\begin{align}
\oint dU & = q+w=0 \\
& \therefore q+w=0
\end{align}

ここで、「第一種永久機関」の定義に立ち返ってみましょう。

第一種永久機関第一種永久機関とは、燃料を入れることなく、エネルギーを生み出す機構のことである。

燃料を入れずに仕事を取り出すので、\(\textit{q=0, w<0}\)となる必要があります。しかしながら、これが成り立つと上式\((\textit{q+w=0})\)が成り立ちません。

したがって、熱力学第一法則によって、第一種永久機関は否定されます

何もない所から無限に使えるエネルギーを得るというのはロマンがありますが、実現が不可能ということが分かったでしょうか。
残念ながら、この方法による世界征服は諦めるしかなさそうですね。
しかし、これで世界征服を挫折するような我々ではありません。是非一緒に様々な思索を巡らせていきましょう。


※1:永久機関には、第一種永久機関のほかに、第二種永久機関がある。今回は、第一種永久機関をとりあげた。

※2:系の中は、「開放系(open system)」、「閉鎖系(closed system)」、「孤立系(isoloted system)」と3つに分けることができる。
 開放系は外界との間に物質の出入りがある系。
 閉鎖系は、外界との間に物質の出入りがない系だが、エネルギーは出入りする。
 孤立系は、外界と物質もエネルギーも出入りがない系。

※3:ここでは簡単のために閉鎖系においてのみ記述したが、開放系においての場合を考慮するためには、法則を拡張しなけばならない。(詳しくは、「熱力学第一法則 開いた系」などと検索されたい。)

※4:今回の場合、\(\varDelta A\)というのは「ある過程後の\(\textit{A}\)\(-\)ある過程前の\(\textit{A}\)」を表す。(あくまで、“今回の場合”である。\(\varDelta\) という記号を差分以外の意味で用いる本もあるので注意。)
これから分かる通り、\(\textit{A}\)にあたる量は、平衡によって決まる状態量である必要がある。註5より、熱量や仕事は状態量でないため、今回は\(\varDelta q \)や\(\varDelta w \)と表さない。
また、\(\textit{q}\)や\(\textit{w}\)は差分を表すものではないので、微分の定義より、これらの微分は表すことができない。但し、\(\textit{U}\)の微小変化\(\textit{dU}\)ごとに\(\textit{q,w}\)が比例すると近似できる場合がある。その場合には、微分を表す\(\textit{dU}\)などと区別して、\(\textit{d’q}\)や\(\textit{d’w}\)と表し、これを不完全微分と呼ぶ。

※5:「熱量と仕事の和」が状態量なのであって、熱量と仕事はそれぞれ状態量ではない
熱量と仕事というものはエネルギーがどのように移動したか、またはその移動の仕方で移動してきた移動量を表すものだ。
これらは平衡状態に至るまでの“過程”に依存し、移動量としてのみ意味をもつものなので、はじめとおわりの平衡状態で値は決まらない。よって、熱量と仕事は状態量ではないことが分かる。

※6:インテグラルに丸がついたようなものは、“周回積分”のインテグラルである。
周回積分とは、ある状態Aを出発して、またその状態Aに戻って来るようなサイクルをなす経路についての積分だと思ってもらえればよい。今回の場合、これと“状態量の性質”と組み合わせたときにどうなるのかが重要である。


参考文献

1) 原田義也. 化学熱力学(修訂版). 裳華房, 2002, ISBN978-4-7853-3065-1.

2) 田崎晴明. 新物理学シリーズ32 熱力学-現代的な視点から-. 培風館, 2000,  ISBN978-4-563-02432-1.

3) 清水明. 熱力学の基礎. 東京大学出版会, 2007, ISBN978-4-13-062609-5.

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