文責:いっそう
※本記事の想定対象は高校生以上です
イントロダクション
ある山の地点Aから別の山の地点Bへ向かおうというときの、ルート選択の仕方について考える.多くの場合、ルートは一つではなく複数通り考えられる.山の尾根伝いに行く道もあれば、斜面に沿って移動するほうが体力の消耗を防げるかもしれない.最短の道がいつも一番楽とは限らないし、ルートによってかかる時間も異なるだろう(図1).

図1:AからBへはいくつかの行き方がある.
化学反応においては、始点と終点にそれぞれエネルギーの高さというものがある.これは存在している分子の安定性からくるものであり、不安定になればなるほどエネルギーは高くなる.分子がどのような経路をとりやすいかという確率に違いはあれど、「ある反応のときは必ずこの経路を通る」というように完全に決めつけることは出来ない.化学反応は原理的には様々な経路を通り、様々な中間体、様々な生成物を生成する.生成物も必ずしも安定とは限らず、いつでも逆反応を起こして原料に戻りうる.では、化学反応はどのように進行し、どのように落ち着くのだろうか.何か傾向はないだろうか.
化学反応がどの程度の時間をかけてどのように進行し、最終的にどう落ち着くかは、反応速度論と熱力学を利用して議論できる.
どのように進行するか、というのは化学反応はどのようなルートをどのような速さで通って反応するかということである.例えば、水酸化ナトリウム水溶液と塩酸をビーカーで混合する場合を考える.このような反応を聞くと、NaOH + HCl → NaCl + H₂O という結果を思い浮かべるだろう.ただし、NaOH + HCl → NaH + ClOH という副反応が起こらないとは限らない.また、反応に使われたNaOHやHClは100%反応し、全てNaClになるのだろうか.言い換えると、ここで逆反応は起こらないのだろうか.これらをどのように説明すればよいだろうか.これを解決に近づけるのが速度論である.
最終的にどう落ち着くか、というのは限りなく長い反応時間が経過した後、ビーカーの中にはどのような分子がどのような比率で存在しているのかということである.先程述べた反応、副反応や逆反応の結果得られる生成物、副生成物はどれほど安定な構造を持っているのだろうか.これを議論できれば、最終的にどの物質がどれほど得られるかを推定できる.
ここで簡単に速度論と熱力学の得意不得意を挙げておく.
速度論では、実際にかかる時間や反応機構を条件ごとに解き明かすことができるが、逆に言うと条件が少しでも違えば結果がコロコロ変わる.また、最終的な収率は熱力学的に決まっているためそれを超えることは単に反応速度を速くするだけでは叶わない.一方熱力学の重要な特徴として、物質の変化の方向と変化量に関する情報は得られるが、変化の速度についての情報は得られないというものがある.
速度論と熱力学はどちらかがどちらかをカバーできるほど万能ではないが、あわせて考えることで反応の理解の解像度がぐっと高まる.
反応速度論
同じ「酸化」であっても、水素の燃焼は爆発的に起こるのに対して鉄が錆びる過程は長い年月をかけて穏やかに進行する.反応速度論は、これらのような化学反応がどの程度の速さで進むかを数式や実験データを用いて理解する方法である.ここでは反応速度の定義と測定方法、反応速度式の決定方法、反応の様子の予測方法について取り扱う.最後には様々な条件での速度式を表にまとめた.
反応速度の定義と測定
時間tに対する反応速度\(v(t)\)は、反応進行度の、変化の速度として定義される.
反応速度の定義
反応進行度
化学反応がどれだけ進行したかを表現するには、物質量[mol]の変化で表現すればよい.物質量を含む単位はいくつかあるが、モル濃度[mol / L]のような単位ではなく、物質量そのものの変化を追うべきである.なぜなら、反応系の体積が変わってしまうような反応の場合、物質量の変化がなくとも体積さえ変わってしまえば濃度は変わってしまうからである.純粋にどの物質がどれだけ消費されたかを表現するためには、物質量そのものの変化を追うほか方法はない.
ここで、A ⇄ B というシンプルな反応を考える※1.Aの物質量を\(\textit{n}_\mathrm{A}\)、Bの物質量を\(\textit{n}_\mathrm{B}\)とする.無限小量だけAがBに変化するとき、その変化量を\(\mathrm{d}{\xi}\)と表すと、Aの物質量の変化は\(\mathrm{d}n_\mathrm{A} = -\mathrm{d}{\xi}\)、Bの物質量の変化は\(\mathrm{d}{\textit{n}}_\mathrm{B} = +\mathrm{d}({\xi})\)となる.この時の\({\xi}\)を反応進行度という.この反応進行度は、その反応がどれだけ起こったかを表すものである.そのため、ある反応における物質ごとの増減は、反応進行度に生成物では係数を正値そのままで掛け、反応物には係数の負値を掛けることで求める.例えば、2H₂ + O₂ → 2H₂O において、水素の物質量が4 [mol]、酸素の物質量が2 [mol]で、反応進行度\(\xi\)=0.5だった場合、水素の変化量は-2 [mol]、酸素の変化量は-1 [mol]、水の変化量は1 [mol]である.
反応進行度を使えば、体積などに依らない、物質量の純粋な増減を表現することができる.
反応速度
反応速度は、体積変化に依らずに表現するならば、反応進行度の変化速度、すなわち\(\frac{\mathrm{d}{\xi}}{\mathrm{d}\textit{t}}\)のことを言う.ある反応を一般式 \(a\mathrm{A} + b \mathrm{B} + … \rightarrow a’ \mathrm{A} + b’ \mathrm{B} + … \) で表し※2、A、B、A’、B’…の濃度[mol / L]を[A]、[B]、[A’]、[B’]…で、物質量[mol]をnA、nB、nA’、nB’で表すとき、反応進行度の変化速度は
\begin{equation}
\frac{{\mathrm{d}{\xi}}}{\mathrm{d}\textit{t}}=-{\frac{1}{a}}{\frac{\mathrm{d}\textit{n}_\mathrm{A}}{\mathrm{d}\textit{t}}}=-{\frac{1}{b}}{\frac{\mathrm{d}\textit{n}_\mathrm{B}}{\mathrm{d}\textit{t}}}=-{\frac{1}{a’}}{\frac{\mathrm{d}\textit{n}_\mathrm{A}’}{\mathrm{d}\textit{t}}}=-{\frac{1}{b’}}{\frac{\mathrm{d}\textit{n}_\mathrm{B}’}{\mathrm{d}\textit{t}}}=… (1)
\end{equation}
となる.反応の前後で体積が変わらないならば、この式の両辺を体積Vで割ることが出来、
\begin{align}
\frac{1}{V}\frac{{\mathrm{d}{\xi}}}{\mathrm{d}\textit{t}}=-{\frac{1}{a}}{\frac{\mathrm{d}\textit{c}_\mathrm{A}}{\mathrm{d}\textit{t}}}=-{\frac{1}{b}}{\frac{\mathrm{d}\textit{c}_\mathrm{B}}{\mathrm{d}\textit{t}}}=-{\frac{1}{a’}}{\frac{\mathrm{d}\textit{c}_\mathrm{A}’}{\mathrm{d}\textit{t}}}=-{\frac{1}{b’}}{\frac{\mathrm{d}\textit{c}_\mathrm{B}’}{\mathrm{d}\textit{t}}}=… (2)
\end{align}
という、反応速度を濃度によって表す式が導かれる.以上(1), (2)が反応速度の定義式である.
反応速度の測定
さてこの反応速度であるが、時間経過にともなう物質の濃度の変化を追うことで、実験で求める事が可能である.以下にその測定方法を挙げる.いずれも反応中に物質がどれくらい増減したかを時間に対して測定するという根本は変わらないが、反応の種類によってそれぞれの方法を使い分ける必要がある.また、測定法を選択する際にはその反応のメリットとデメリットを状況に応じて判断する必要がある.一般に、サンプルを消費する必要がない非破壊の測定は、破壊の必要な測定に比べて好まれる.言うまでもないが、測定の前には各測定法の長所と短所を知っておく必要があるし、吟味する必要がある.
吸光光度法
色がついている物質や、特定の紫外線を吸収する物質の反応については吸光光度法が有効である.これは反応液に特定の波長の光をあて、透過した光の割合を測定する測定方法である.試料が光を吸収すると、その分透過する光は減る※3.物質の濃度が濃いほど光を遮るため、透過した光の量に変化があればその時の濃度を逆算できる.反応液の濃度がリアルタイムに測定できるため、大変有用である.
長所は非破壊でリアルタイムに分析できることと低濃度でも測定できる感度.また、物質によって吸収する光の波長には違いがあるため特定の物質を狙ってその濃度を追跡できることも見逃せない.
短所は、対象の物質が測定器の光を吸収する性質を持っていない場合はそもそも測定が出来ないということ、溶液の濁りや反応での記法の発生がある場合は光が産卵してしまい正確なデータがとれないということ.さらに、長所に高感度を挙げたが、濃度が濃すぎた場合はかえって測定が出来ないということも短所だ.とにかく、測定器の光を吸収しない場合は測定できない.
圧力・体積の測定
気体が発生したり反応前後で気体の分子数が変化したりする反応の時は、変化する圧力や体積を測定する方法が有効である.密閉容器の中で反応を起こし、容器内の圧力の上昇を圧力計で測る.圧力の変化は、生成した気体のモル数、すなわち濃度の変化に直接比例するため、ここから濃度を割り出すことができる.
長所は非破壊でリアルタイムに測定ができるということ、そして安価に装置を構築できるということである.密閉容器と圧力計(もしくはシリンジのような体積計)だけで測定ができる.
短所は反応前後で気体のモル数が変化しないと使えないということ、変化したとしても全圧しか測定ができないということ、そして温度変化に弱いということである.分圧を測定することはできないため発生する気体は1種類であることが望ましい.気体の圧力や体積は温度によってダイレクトに変動する※4ため温度変化に弱い.
電気伝導度の測定
イオンの量が変化する反応では、反応前後で導電性が変化する.溶液に電極を突っ込み、電気の通りやすさを測定する.イオンが増えれば電気が通りやすくなるため、その数値から濃度変化を読み取る.
長所は非破壊でリアルタイムに測定ができるということ、そして溶液が濁っていても測定できるということである.
短所は電気伝導度の変化のない反応には使えないということ、そしてノイズに弱いということである.溶液中のすべてのイオンの合計の電気の通りやすさを測るため、反応に関係ない塩などが大量に溶けていると、バックグラウンドのノイズが大きくなりすぎて、測りたいわずかな変化が埋もれてしまう.
反応停止と滴定
リアルタイムでの測定が使えない複雑な反応では、反応を停止させて濃度を測定する.反応中のビーカーから1分後、2分後、3分後……のように時間を分けて反応液を採取する.採取した液は、氷水に放り込んだり、別の薬品を入れたりして起こっている反応を強制終了させる.その後、滴定などの化学分析を行って、その瞬間の濃度を地道に測る.
長所は光の吸収やイオンの発生、気体の発生といった物理的な変化がなくとも、てきていさえできる物質であれば化学的に測定できること.また、滴定の工夫次第では特定の物質のみについて何モルあるかを正確に定量できることである.
短所は破壊的でリアルタイムな測定はできないということと、時間も手間もサンプル量もかなり要するということである.
反応速度式の決定
化学反応というのは分子どうしの衝突によって起こる.体積が一定の反応系、例えばビーカーにおいて、物質の濃度が濃いほど分子は衝突しやすい.例えるなら、同じ大きさの体育館内でランダムに学生が運動するとき、人が多いほうがぶつかりやすいということだ.これを数式化すると、以下のような、反応速度v(t)と濃度の関係を表す「見かけの反応速度式」を決定できる.
aA + bB → cAB という化学反応において、反応速度式は以下のようになる※5, ※6.
\begin{align}
\textit{v} = \textit{k}{[\mathrm{A}]^x}{[\mathrm{B}]^y}
\end{align}
以上の反応速度式に出てくる変数はどのように決めればいいだろうか.まずA、Bは反応物である.kは反応速度定数といい、温度や触媒によって決まる定数である.二分子反応と仮定したものの、必ずしもAとBが一対一で衝突して反応が起こっているとは限らない.そこで設定するのが反応次数であり、x、yに対応する.反応次数の大きさに応じて、その反応は一次反応、二次反応などと呼ぶ.これは化学反応式の係数などから単純に決定できるものではなく、実験からでしか求めることはできない.しかし、むしろ、だからこそ反応次数はミクロな世界で起こる化学反応のメカニズムのヒント(例えばどの段階が律速反応になっているかなど)を示してくれる.
以下に実験データからx、yを決定するための手法と、反応速度定数kを如何にして決定するかの方法を挙げる.
反応次数の決定
分離法
AとBとの二分子反応のうち、調べたい物質(例えばA)以外の反応物(B)を大過剰に用意し、計算を単純化する方法である.この条件では、Aが反応して全て消えても、B は大量にあるため濃度がほぼ変化しない.このとき、Bの濃度を一定と近似することで\([B]^y\)を定数とみなすことができる.このようにして、化学反応をあたかも「Aだけの反応(擬一次反応)」に見せかけることで反応次数を独立して求めることが出来る.数式としては、以下のような近似を行っている.
\begin{align}
\textit{v} = \textit{k}{[\mathrm{A}]^x}{[ \mathrm{B}]^y} \rightarrow \textit{v} = \textit{k’}{[ \mathrm{A}]^x} (k’ = k[ \mathrm{B}]^y)
\end{align}
初速度法
反応が始まった直後(t = 0 付近)の速さだけを測って比較する方法である.反応が進むと生成物ができて逆反応が起きたり、濃度変化が複雑になったりする.そこで、反応開始直後の初速度だけに注目する.
反応開始直後であれば、反応物の濃度は最初に入れた濃度そのものとみなすことが出来る.この初期濃度を少しずつ変えた複数の実験を行い、初速度の変化を比較する.
例えばAとBとの二分子反応において、それぞれの初期濃度[A]₀、[B]₀を変化させて実験を行い、以下の表1のような結果を得られたとする.
表1:初速度法の実験結果
| 実験 | 初期濃度 [A]₀ | 初期濃度 [B]₀ | 測定された初速度 v₀ |
| 実験 1 | 0.10 mol/L | 0.10 mol/L | 1.0 × 10³ |
| 実験 2 | 0.20 mol/L | 0.10 mol/L | 2.0 × 10³ |
| 実験 3 | 0.10 mol/L | 0.20 mol/L | 4.0 × 10³ |
表1から実験結果を比較する.まず実験1と実験2を比較すると、Bの濃度を固定しAの濃度のみ2倍にすると反応速度も2倍になっていた.このことから、Aについては一次反応であることが分かる.次に実験1と実験3を比較すると、Aの濃度を固定しBの濃度を2倍にすると速度は4倍(2²倍)になっていた.よって、Bについては二次反応であると分かる.
以上よりこの反応の速度式は\(\textit{v} = \textit{k}{[\mathrm{A}]}{[\mathrm{B}]^2}\)であると決定できる.
反応速度定数の決定
反応速度定数\(\textit{k}\)がどのような意味を持っているか、つまりどのような変数や定数で構成されているかについてはスウェーデンの化学者Arrhenius(アレニウス)※7によって提唱されたArrheniusの式※8によって説明される.早速以下にArrheniusの式を示す.
\begin{align}
\textit{k} = {\textit{Ae}}^{-{\frac{\textit{E}_a}{\textit{RT}}}}
\end{align}
この式の右辺は5つの値によって構成されている.\(\textit{e}\)と\(\textit{R}\)はそれぞれネイピア数と気体定数[J/(mol・K)]であるが、重要なのは残りの3つである.これら3つを順に説明する.
Arrheniusの式の重要な要素
1つ目は絶対温度(\(\textit{T}\)[K])である.温度が高くなるというのは分子のもつ運動エネルギーが大きくなるということである.すると、反応を起こすのに十分な勢いで衝突する分子の割合が爆発的に増える.式の中でこの値を大きくしていくとマイナスの指数部分がゼロに近づくため、反応速度定数は指数関数的に大きくなる.
2つ目は活性化エネルギー(\(\textit{E}_a\)[J/mol])である.活性化エネルギーというのは、反応物を生成物に変えるために乗り越えなければならないエネルギーの壁の高さである.少ないエネルギーしか持たない分子でも、活性化エネルギーが低ければ反応できる分子が多くなる.数式を見ても、この値が小さくなるほど反応速度定数が大きくなることが分かる.
3つ目は頻度因子(\(\textit{A}\))である.頻度因子の単位は反応速度定数と等しくなる.反応速度定数の単位は反応次数によって変わるので、頻度因子の単位もこれに応じて変化する.頻度因子とは分子の衝突する頻度と衝突する向きを表す定数である.分子同士が十分なエネルギーで激しくぶつかったとしても、鍵と鍵穴のように正しい角度でぶつからないと反応は起きない.この値は物質固有の値である.
これら要素の測定方法
まず、温度は実験者がコントロールできる要素である.温度に関しては何の問題もない.
次に活性化エネルギーと頻度因子の測定方法だ.温度を様々に変化させて反応速度とその時の速度定数\(\textit{k}\)を求める.ここで、以下のようにArrheniusの式の両辺の自然対数を取る.
\begin{align}
& \textit{k} = {\textit{Ae}}^{-{\frac{\textit{E}_a}{\textit{RT}}}}
& \ln {\textit{k}} = \ln{\textit{A}} -\frac{\textit{E}_a}{R}\cdot \frac{1}{\textit{T}}
\end{align}
この左辺\( \ln {\textit{k}}\)を縦軸に、\(\frac{1}{\textit{T}}\)を横軸に反応のグラフを描くと直線が表れる.このとき傾きの値は\(-\frac{\textit{E}_a}{R}\)であるため、ここから活性化エネルギー\({\textit{E}_a}\)を求めることができる.また、y切片の値は\(\ln {\textit{A}}\)であるため、ここから頻度因子\(\textit{A}\)を求められる.
反応の様子の予測方法
反応速度論を使えば反応の様子を予測することも可能になる.具体的には、反応開始からある時間が経過した後の反応物の濃度を予測できる.1節と2節で得た反応速度に関する式を再掲する.
\begin{align}
v = -{\frac{1}{a}}{{\frac{\mathrm{d}[\mathrm{A}]}{{\mathrm{d}t}}}} v = k{[\mathrm{A}]^x}{[\mathrm{B}]^y}
\end{align}
これらは導出方法の異なる2式であり、片方から片方を導くことはできない.しかしこれらは互いに反応速度についての式であり、2つを結ぶことはできる.これらを結び式変形をしていくと積分形の速度式が出てくる.これこそ、「ある時間が経過した後の反応系中の反応物の濃度が、もとの濃度に比べどれだけ変化したかを計算できる式」である.ここからは、いくつかの例でこれを確かめたい.
係数が1の一次反応の場合
2式を結ぶと次の式ができる.
\begin{align}
-{{\frac{\mathrm{d}[\mathrm{A}]}{{\mathrm{d}\textit{t}}}}} = \textit{k}[\mathrm{A}]
\end{align}
この式を変形すると
\begin{align}
-{{\frac{\mathrm{d}[\mathrm{A}]}{{\mathrm{d}\textit{t}}}}} & = \textit{k}[\mathrm{A}] \\
-{\frac{1}{[\mathrm{A}]}}\mathrm{d}[\mathrm{A}] & = k \mathrm{d}t \\
両辺を積分する \\
\int_{[\mathrm{A}]_0}^{[\mathrm{A}]} {-{\frac{1}{[\mathrm{A}]}}\mathrm{d}[\mathrm{A}]} & = \int_{0}^{t} {k} \mathrm{d}t \\
-[[\ln [\mathrm{A}]]_{[\mathrm{A}]_0}^{[\mathrm{A}]} & = \textit{k}[t]_{0}^{t} \\
– \ln (\frac{[\mathrm{A}]}{{[\mathrm{A}]_0}}) & = \textit{kt} \\
[\mathrm{A}] & = [\mathrm{A}]_0 \exp (-\textit{kt}) ([\mathrm{A}] = [\mathrm{A}]_0 \mathrm{e}^{-\textit{kt}})
\end{align}
左辺がある時間\(t\)での\(\mathrm{A}\)の濃度を、右辺が\(\mathrm{A}\)の初濃度からどれだけ値が変わったかを示している.すなわち、得られた式は「ある時間が経過した後の反応系中の反応物の濃度が、もとの濃度に比べどれだけ変化したかを計算できる式」である.
係数が2の一次反応の場合
定義式は\(-{\frac{1}{2}}{\frac{{\mathrm{d}[\mathrm{A}]}}{\mathrm{d}t}}={k}[\mathrm{A}]\)である.これを式変形すると\(-{\frac{{\mathrm{d}[\mathrm{A}]}}{\mathrm{d}t}}=2\textit{k}[\mathrm{A}]\)であり、これは係数が1のときの式の\(\textit{k}\)が\(2\textit{k}\)に置き換わっただけの形である.したがって積分形速度式は以下のようになる.
\begin{align}
[\mathrm{A}] = [\mathrm{A}]_0 \exp (-2\textit{kt})
\end{align}
反応物が2つの二次反応の場合
「A + B → 生成物」の反応を考える.ここではAとBの二つの濃度の変化を追う必要がある.すなわち、2変数の式になる.初期条件によって以下の二つに場合を分けて考える.
①最初の濃度が「全く同じ」場合
\([\mathrm{A}]_0 = [\mathrm{B}]_0\)の条件で、1:1で反応する場合、最初が同じ濃度なら、減っていく量も全く同じであるから常に\([\mathrm{A}]=[\mathrm{B}]\)が成り立つ.この場合、速度式は\(v = k[\mathrm{A}][\mathrm{B}]=k[\mathrm{A}][\mathrm{A}]=k[\mathrm{A}]^2\)と書き換えられるため、A単独の二次反応として積分形速度式を求めればよい.以下の通り.
\begin{align}
\frac{1}{[\mathrm{A}]} = kt + \frac{1}{[\mathrm{A}]_0}
\end{align}
②最初の濃度が「違う」場合
最初の濃度が違う場合は少し複雑になる.
\(\mathrm{A}\)の初期濃度が\(\mathrm{B}\)のそれよりも高い(\([\mathrm{A}]_0 > [\mathrm{B}]_0\))とする. ある時間\(t\)で反応が\(x\)[mol]分だけ進んだとすると、\(\mathrm{A}\)と\(\mathrm{B}\)のそれぞれの濃度は\([\mathrm{A}]=[\mathrm{A}]_0 – x\)、\([\mathrm{B}]=[\mathrm{B}]_0 -x\)となる.このときの反応速度式は以下のようになる.
\begin{align}
v = \frac{dx}{dt} = k[\mathrm{A}][\mathrm{B}] = k([\mathrm{A}]_0 – x)([\mathrm{B}]_0 – x)
\end{align}
左辺に\(x\)を集め、部分分数分解を行うと以下のようになる.
\begin{align}
\frac{\mathrm{d}x}{([\mathrm{A}]_0 – x)([\mathrm{B}]_0 – x)} &= k \mathrm{d}t\\
\frac{1}{[\mathrm{A}]_0 – [\mathrm{B}]_0}({\frac{1}{[\mathrm{B}]_0 – x}-{\frac{1}{[\mathrm{A}]_0} – x})\mathrm{d}x} &= k\mathrm{d}t
\end{align}
両辺を反応開始時から\(x\)だけ反応した時間\(t\)まで積分する.
\begin{align}
& \int_{0}^{x} {\frac{1}{[\mathrm{A}]_0 – [\mathrm{B}]_0}({\frac{1}{[\mathrm{B}]_0 – x}-{\frac{1}{[\mathrm{A}]_0} – x}})} dx\\
& = \int_{0}^{t} {k} dt
\frac{1}{[\mathrm{A}]_0 – [\mathrm{B}]_0} [- \ln {([\mathrm{B}]_0 – x)}-(- \ln {([\mathrm{A}]_0 – x)})]_{0}^{x}\\ & = kt
\frac{1}{[\mathrm{A}]_0 – [\mathrm{B}]_0} [\ln ({\frac{[\mathrm{A}]_0 – x}{[\mathrm{B}]_0 – x}})]_{0}^{x}\\ & = kt
\frac{1}{[\mathrm{A}]_0 – [\mathrm{B}]_0} (\ln ({\frac{[\mathrm{A}]_0 – x}{[\mathrm{B}]_0 – x}}) – \ln ({\frac{[\mathrm{A}]_0}{[\mathrm{B}]_0}}))\\ & = kt
\frac{1}{[\mathrm{A}]_0 – [\mathrm{B}]_0} \ln (\frac{([\mathrm{A}]_0 – x)[\mathrm{B}]_0}{([\mathrm{B}]_0 – x)[\mathrm{A}]_0})\\ & = kt
\end{align}
最後に、\([\mathrm{A}]=[\mathrm{A}]_0 – x\)、\([\mathrm{B}]=[\mathrm{B}]_0 -x\)であったから、これを代入すると、以下の積分形速度式が導かれる.
\begin{align}
kt = \frac{1}{[\mathrm{A}]_0 – [\mathrm{B}]_0} \ln (\frac{[\mathrm{A}][\mathrm{B}]_0}{[\mathrm{B}][\mathrm{A}]_0})
\end{align}
以上のように面倒くさい式が導かれたわけだが、実は一工夫をするとこの式はシンプルになる.条件を\([\mathrm{A}]_0 > [\mathrm{B}]_0\)ではなく\([\mathrm{B}]_0 ≫ [\mathrm{A}]_0\)とし、\(\mathrm{B}\)を過剰に混ぜてみよう.すると\([\mathrm{A}]_0 – [\mathrm{B}]_0 \fallingdotseq – [\mathrm{B}]_0\)と見なせる.同時に、\(\mathrm{B}\)は少ししか減らないため\([\mathrm{B}] \fallingdotseq [\mathrm{B}]_0\)と見なせる.これを先程の速度式に代入しよう.
\begin{align}
kt \fallingdotseq \frac{1}{- [\mathrm{B}]_0} \ln (\frac{{[\mathrm{A}]}[\mathrm{B}]_0}{{[\mathrm{B}]_0}[\mathrm{A}]_0}) =- \frac{1}{[\mathrm{B}]_0} \ln (\frac{[\mathrm{A}]}{[\mathrm{A}]_0})
\end{align}
両辺に\(-[\mathrm{B}]_0\)を掛けると
\begin{align}
\ln (\frac{[\mathrm{A}]}{[\mathrm{A}]_0}) = – k[\mathrm{B}]_0 t
\end{align}
勘のいい方ならそろそろ気づくかもしれない.両辺を\(\mathrm{e}\)の肩に乗せて整理すると
\begin{align}
[\mathrm{A}] = [\mathrm{A}]_0 \exp (-(k[\mathrm{B}]_0)t) = [\mathrm{A}]_0 \exp (-k’t) ただし(k’ = k[\mathrm{B}]_0)
\end{align}
そう、これは「反応次数の決定」の項で登場した分離法だ.改めて擬一次反応の威力に気づいていただけただろう.
半減期の導出
半減期とは、反応物の濃度が最初の半分(\(\frac{1}{2}[\mathrm{A}]_0\))になるまでの時間のことである.積分形速度式において、\([\mathrm{A}]=\frac{1}{2}[\mathrm{A}]_0\)、\(\textit{t}=\textit{t}_{\frac{1}{2}}\)を代入し、\(\textit{t}_{\frac{1}{2}}\)について解けばよい.
条件ごとの反応速度式まとめ
様々な条件での反応速度式を以下の表にまとめた.表2では速度式、積分形速度式、半減期を順に記した.表3では速度定数を測定するために何を縦軸、横軸にとるかということと、条件ごとの速度定数の単位を記した.
表2:条件ごとの反応速度式
| 変数 | 0次 | 1次 | 2次 | n次 (g=1-n) |
| 速度式 | \(\frac{-d[\mathrm{A}]}{dt}=k\) | \(\frac{-d[\mathrm{A}]}{dt}=k[\mathrm{A}]\) | \(\frac{-d[\mathrm{A}]}{dt}=k[\mathrm{A}]^2\) | \(\frac{-d[\mathrm{A}]}{dt}=k[\mathrm{A}]^n\) |
| 積分形速度式 | \([\mathrm{A}]={[\mathrm{A}]_0}-kt\) | \([\mathrm{A}]={[\mathrm{A}]_0}\mathrm{e}^{-kt}\) | \(\frac{1}{[\mathrm{A}]}=\frac{1}{[\mathrm{A}]_0}+kt\) | \([\mathrm{A}]^g = [\mathrm{A}]^g_0-gkt\) 1次の場合を除く |
| 半減期 | \(\frac{\mathrm{M}}{\mathrm{s}}\) | \(\frac{1}{\mathrm{s}}\) | \(\frac{1}{\mathrm{M}\cdot \mathrm{s}}\) | \(\frac{\mathrm{M}^g}{\mathrm{s}}\) |
表3:条件ごとのプロット方法と速度定数の単位
| 変数 | 0次 | 1次 | 2次 | n次 (g=1-n) |
| プロット (縦軸 vs. 横軸) | \([\mathrm{A}]\mathrm{vs.}t\) | \(\ln ([\mathrm{A}])\mathrm{vs.}t\) | \(\frac{1}{[\mathrm{A}]}\mathrm{vs.}t\) | \({[\mathrm{A}]^g}\mathrm{vs.}t\) 1次の場合を除く |
| 定数の単位 | \(t_{\frac{1}{2}}=[\frac{\mathrm{A}]_0}{2k}\) | \(t_{\frac{1}{2}}=\frac{\ln (2)}{k}\) | \(t_{\frac{1}{2}}=\frac{1}{k[\mathrm{A}]_0}\) | \(t_{\frac{1}{2}}=\frac{[\mathrm{A}^g_0(1-{2^{-g}})]}{gk}\) 1次については極限をとる必要あり |
おまけなど
化学英単語集(本記事キーワードとその英訳)
| 反応速度論 | chemical kinetics |
| 化学熱力学 | chemical thermodynamics |
| 反応物 | reactant |
| 生成物 | product |
| 中間体 | intermediate |
| 副反応 | side reaction |
| 収率 | yield |
| 反応進行度 | extent of reaction |
| 物質量 | amount of substance |
| 反応速度 | reaction rate |
| 吸光光度法 | spectrophotometry |
| 滴定 | titration |
| 反応速度式 | rate equation(rate law) |
| 反応速度定数 | rate constant |
| 反応次数 | reaction order |
| 一次反応 | first-order reaction |
| 二次反応 | second-order reaction |
| 律速段階(律速反応) | rate-determining step |
| 分離法 | isolation method |
| 擬一次反応 | pseudo-first-order reaction |
| 初速度法 | method of initial rates |
| Arrheniusの式 | Arrhenius equation |
| 活性化エネルギー | activation energy |
| 頻度因子 | frequency factor(pre-exponential factor) |
| 積分形速度式 | integrated rate equation |
| 半減期 | half-life |
| 可逆反応 | reversible reaction |
| 不可逆反応 | irreversible reaction |
| 平衡 | equilibrium |
| 遷移状態 | transition state |
| 活性錯体 | activated complex |
| 吸光度 | absorbance |
| 素反応 | elementary reaction |
| 単分子反応 | unimolecular reaction |
| 二分子反応 | bimolecular reaction |
| 三分子反応 | termolecular reaction |
| 活量 | activity |
| 活量係数 | activity coefficient |
| 分子間力 | intermolecular force |
| 溶媒和 | solvation |
| 排除体積効果 | excluded volume effect |
| 電解質 | electrolyte |
| 双性イオン | zwitterion |
| Boltzmann分布 | Boltzmann distribution |
| 統計力学 | statistical mechanics |
| 熱エネルギー | thermal energy |
※註
※1:A ⇄ Bに当てはまるような反応としては異性化や不斉反転が挙げられる.ここで→ではなく⇄を使用しているのは、理論上全ての反応は可逆反応であるためである.反応が不可逆反応と表現される場合は大抵、生成物が何らかの形で反応系から出ていくことによる平衡の傾きが大きいということを表している.例えば気体を生じる反応は平衡が傾きやすく、一般に不可逆反応と表現される場合が多い.
※2:本来の反応では反応物と生成物の間で遷移状態をとるというのが現在の化学反応に関する基本的な考え方である.化学反応は瞬間的に一段階で起こっているのではなく、「フェムト秒」(1 fs = 10-15 sec)という極めて短い時間ではあるが、徐々に結合と解離が起こり活性錯体と呼ばれる構造を形成している.こういった、化学反応における過渡的な状態を遷移状態という.
※3:Lambert–Beerの法則を利用している.ある物体を光が通った際、光の強度がどの程度弱まるかを示す値を吸光度と定義すると、この法則は「吸光度は光が通った距離、光が通った物体のモル濃度に比例する」というものである.この記事で深入りはしない.2026年8月7日現在、危険科学部でこの法則について書いた記事はない.気になった方は「ランベルト・ベールの法則」で検索.
※4:Charlesの法則、Boyleの法則、Gay-Lussacの法則の3つから、「気体の圧力は体積に反比例し、絶対温度に比例する」という法則を導出できる.この法則は我が国ではボイル・シャルルの法則として知られている.この記事で深入りはしない.2026年8月14日現在、危険科学部でこの法則について書いた記事はない.気になった方は「ボイル・シャルルの法則」で検索.
※5:なぜA、Bまでしか考えないのか、すなわちC以降がある可能性は考えないのかということを疑問に思うかもしれない.これは、C以降がある確率が非常に低いからである.反応速度論では化学反応の最小ステップ(素反応)を分子の衝突によって起こるものとしている.衝突というのは、全く同じタイミングで全く同じ空間座標に十分なエネルギーを持って分子が集まるということである.単分子反応([A]のみ)の場合はAが自発的に分解、変化する反応を、二分子反応([A][B])はAとBが衝突し変化する反応を表している.では三分子反応([A][B][C])の場合はどうなるかというと、A、B、Cが全く同じタイミングで全く同じ空間座標に集まるということである.集まり方には当然正しい「向き」というのも要求される.こういったことが起こる可能性は限りなく低い※※1.では、原料が3つ以上の反応はどのように進行しているかということであるが、これはほとんどの場合二分子反応の連続として進んでいる.まずAとBがぶつかり一時的な中間体ABを形成し、そこにCがぶつかることで最終生成物を得るという具合である.これはA + Bという二分子反応とAB + Cという二分子反応の連続である.したがって、見かけの速度式を考えるうえでは二分子まで考慮すれば十分なのである.
※6:ここではモル濃度で立式したが、この式は低濃度条件でしか成り立たない.モル濃度は溶液中にいくつの分子が存在するかを表しているが、溶液中の分子の相互作用を加味した値ではない.反応物の分子は溶液中で互いに分子間力により相互作用しているほか、溶媒分子や生成物の分子とも相互作用をする.そのため、高濃度条件では溶液中の分子全てが有効に化学反応を起こすとは限らない.そこで厳密には、化学反応において実際に働く有効な濃度を表す「活量」という概念を用いて反応速度式を立式する※※2.ただし、最初に述べたように、低濃度条件においては相互作用する分子が減ることで活量がモル濃度の値と近くなるため近似が成立し、モル濃度での立式ができるようになっている.高校化学の教科書で登場する溶液の濃度の値が、軒並み0.0ホニャララ……と低く設定されているのも、高濃度ではこの近似が成り立たなくなってしまうからであろう.
※7:Arrheniusと聞いてピンときた方もいるかもしれない.この式に名を残すSvante Arrhenius(スヴァンテ・アレニウス)は1884年、電解質が水に溶けると、電流を流さなくてもプラスとマイナスのイオンに分かれるという電離説を発表し、1903年にこの功績でノーベル化学賞を受賞した.そして彼は、Arrheniusの定義として知られる酸、塩基の定義を提唱したことで有名である.高校でも学習する酸塩基理論の基本定義だ.
ちなみに、「さらなる註」の※※2にはBrønsted-Bjerramの式という式が登場する.Brønstedとは、Johannes Nicolaus Brønsted(ヨハネス・ニコラウス・ブレンステッド)のことで、彼は1923年、イギリスのThomas Martin Lowry(トマス・マーティン・ローリー)と独立に、そして同時に新しい酸、塩基の定義を提唱し酸塩基理論の水平線を押し広げた.高校だと「ブレンステッドの定義」として習う定義だ.Bjerramは、以上の2人に比べるとマイナーかもしれないが、Niels Bjerrum(ニールス・ビェルム)というデンマークの化学者である.彼はBrønstedの同僚であり、彼と同様酸塩基理論の分野において重要な功績を残した.彼は1906年から1909年にかけて「強電解質は水中で100%完全にイオンに解離しており、計算上のズレはイオン同士の静電気的な相互作用によるものである」と主張した.これは後のDebye-Hückel理論の先駆けとなるものである.また1923年、アミノ酸が中性水溶液中において、分子内にプラスの電荷とマイナスの電荷の両方を併せ持つ「双性イオン」として存在していることを理論的に証明した.また、物理学におけるBjerrum距離も彼に由来する.これは2つの電荷間の静電相互作用のエネルギーが、熱運動のエネルギーと等しくなる距離である.
※8:Arrheniusの式を見てどうしてこうも複雑な式が出てきたのかと思う人もいるかもしれない.この註ではArrheniusの式がどのような構造をしているかをより詳細に扱いたい.そもそも化学反応は分子同士が適切な角度で衝突することで起こる現象だ.反応には衝突だけでなく、衝突した分子が反応に必要なエネルギーを持っている必要もある.反応速度を表すには反応物の濃度以外にも反応物が反応するという確率が式のどこかに組み込まれていないと不自然だ.このArrheniusの式\(\textit{k}=\textit{A}\times{\textit{e}}^{-\frac{\textit{E}_a}{\textit{RT}}}\)は「反応回数 = 衝突回数 × 反応の成功確率」という意味合いを持っている.頻度因子が衝突回数を表しているのはすぐ分かるだろう.1秒間・単位体積あたりに分子同士がどれくらい衝突するか回数を表すのがこの値である.残りの\({\textit{e}}^{-\frac{\textit{E}_a}{\textit{RT}}}\)は、衝突した分子のうち、エネルギーの壁を超えられる分子がどれくらい存在するかを表す値である.この値は統計力学のBoltzmann分布によって導かれる.Boltzmann分布についてはここで深入りはしない.「ボルツマン分布」などで検索すると良い.ネイピア数の肩の値は、\(-(\frac{乗り越えるべきエネルギーの大きさ\textit{E}_a}{分子が平均して持っている熱エネルギー\textit{RT}})\)である.値が負なのは次の理由である.それは、平均よりもはるかに高いエネルギーを持つ分子の割合は倍率(\(\frac{\textit{E}_a}{\textit{RT}}\))が大きくなるほど指数関数的に急減するため、その減衰を表すためである.
※※さらなる註
※※1:限りなく低いだけで、そのような素反応が存在しないわけではない.一酸化窒素の酸化はその例で、 2NO + O₂ → 2NO₂ では一酸化窒素二分子と酸素一分子が同時に衝突することで反応が起こっている.
※※2:活量\(\textit{a}\)と濃度\(\textit{c}\)は、\(\textit{a} = \gamma \textit{c}\)という関係にある.ここで\(\gamma\)は活量係数と呼ばれ、全ての分子が他の分子からの影響を受けずに運動できる理想状態からのズレを表すパラメータである.低濃度では\(gamma \approx 1\)となるため、濃度の値をほとんどそのまま活量と見なせる.高濃度では\(gamma\)が\(1\)から大きく外れる.高濃度では分子間力、溶媒和、排除体積効果による影響が大きくなり、場合によって\(gamma\)は\(1\)より大きくなることも小さくなることもある.このため濃度の値をそのまま計算に使うと実際の反応速度とズレが生じる.AとBが反応し、遷移状態を経て生成物が生じる反応において、厳密に反応速度を記述するためには、\(\textit{k} = {\textit{k}_0}{\frac{{{{\gamma}_A}{{\gamma}_B}}}{\gamma_{\ddagger}}}\)のように、反応速度定数に活量係数による補正を加える(Brønsted-Bjerramの式).ここで\({{\gamma}_A}\)、\({{\gamma}_B}\)は反応物A、Bの活量係数、\(\gamma_{\ddagger}\)は遷移状態の活量係数であり、\(\textit{k}_0\)は低濃度での理想的な反応速度定数である.
参考文献一覧
1)古賀元, 古賀ノブ子, 安藤亘、“有機化学用語事典”、朝倉書店 (1990)

コメント