文責:たいち
高校数学の教科書では,対数関数の導関数をきれいに書くということをモチベーションにネイピア数が導入されているように思える.
ところでネイピア数は,物理学の領域では,量の変化がその量に比例するという特殊なケースにおいて,その量を定式化するときに現れる.空気抵抗の計算はいい具体例である.実験事実などから,空気抵抗力の大きさは運動している物体と空気との相対速度に比例することが分かっている.すなわち,空気中の物体の速度の変化は,物体自身の速度に比例する.
空気抵抗に限らず,同様の計算は物理学で頻繁に現れる.ならば,この「量を定式化する」ということをモチベーションにネイピア数を導入するとより自然にネイピア数への理解が進むのではないだろうか.本記事はそんな考えのもと執筆をした.
本記事ではまず,私が提案するネイピア数の定義となる微分方程式を紹介し,これが高等学校で学習する,ネイピア数の極限による定義と同値であることを示す.最後に提案したネイピア数の定義の威力を味わってもらうために対数関数の導関数を導出する.
どうか最後まで読んでいただけると嬉しい限りである.
ネイピア数の定義
初めに,今回提案するネイピア数の定義を紹介する.
[ネイピア数\(e\)の定義]
\( \frac{{\rm d}e^x}{{\rm d}x}=e^x \)が\(x\)についての恒等式となるような数\(e\)をネイピア数とする.
少しかみ砕くと,「微分方程式\( \frac{{\rm d}f}{{\rm d}x}=f \)を満たす指数関数\(f\)の底をネイピア数\(e\)とする」ということである.
以下で,この定義を思いつく流れとこれが高等学校流の定義と同値であることを説明し,最後に補足を加えたい.
ネイピア数の定義となる微分方程式
前書きにおいて空気抵抗を具体例として取り上げたので,ここでも空気抵抗の計算を例に考えよう.空気中の物体の速度を\(v(t)\)とする※1.速度の変化は速度の大きさに比例するという実験事実より,
$$ \frac{{\rm d}v(t)}{{\rm d}t}=v(t) (1) $$
なる方程式が立てられる※2.数学の問題として見やすくなるように,\(v(t) \rightarrow f(x)\)と書き換えておく.
$$ \frac{{\rm d}f}{{\rm d}x}=f (2) $$
この微分方程式の解を構成する要素としてネイピア数\(e\)を導入するわけだが,関数形が不明なのでこれを考察する.試しに,指数関数\(3^x\)が\(x\)の変化に対しどのように変化するか見てみよう.
$$ 3^{x+1}=3 \times {3^x} =3^x +2 \times 3^x (3)$$
ここで右辺第二項について考える.
まずdxを十分に小さい正の数とする.
\(3^{x+dx}=3^{dx}3^x={3^x}+(3^{dx}-1)3^x\)
\(dx>0\)より\(3^{dx}>1\)であるので,\((3^{dx}-1)>0\)
この関係式より,変化量\((3^{dx}-1)3^x\)は自身\(3^x\)に比例していることが分かる.
したがって,変化量が自身の大きさに比例するのは指数関数の性質である.
このことより,微分方程式の解の関数形は指数関数であると考えられる.
そして,この指数関数の底をネイピア数\(e\)と定義する.
つまり\((2)\)の解は
$$ f(x)=e^x (4)$$
であるので,冒頭の定義
\( \frac{{\rm d}e^x}{{\rm d}x}=e^x \)が\(x\)についての恒等式となるような数\(e\)をネイピア数とする.
が得られた.
ネイピア数の極限による表示
高校数学の教科書に載っているネイピア数の定義と同値であることを微分の定義を使って示す.
微分の定義は
$$ \frac{{\rm d}f}{{\rm d}x}=\lim_{\varepsilon\to 0}{\frac{f(x+\varepsilon)-f(x)}{\varepsilon}} (5)$$
である.したがって,微分方程式\((2)\)に
$$ \frac{{\rm d}f}{{\rm d}x}=\lim_{\varepsilon\to 0}{\frac{e^{x+\varepsilon}-e^x}{\varepsilon}} (6)$$
を代入すると,
\begin{align}
\lim_{\varepsilon\to 0}{\frac{e^{\varepsilon}e^x-e^x}{\varepsilon}}
& = e^x \\
\lim_{\varepsilon\to 0}{\frac{(e^{\varepsilon}-1-\varepsilon)e^x}{\varepsilon}} & = 0 \\
\lim_{\varepsilon\to 0}{e^{\varepsilon}-1-\varepsilon} & = 0 ( \because e^x \neq 0, \varepsilon \neq 0) \\
\lim_{\varepsilon\to 0}{e^{\varepsilon}} & = \lim_{\varepsilon\to 0}{(1+\varepsilon)} \\
\therefore e & = \lim_{\varepsilon\to 0}{(1+\varepsilon)^{\frac{1}{\varepsilon}}} (7)
\end{align}
となる.以上の通り,高等学校流のネイピア数の極限による表示が得られ,確かに微分方程式による定義はこれと同値であることが確認できた.
対数関数の導関数
ネイピア数の微分方程式による定義を用いると,対数関数の導関数が楽に導出できることを紹介する.使う道具は,ネイピア数の定義と合成関数の微分法,そして対数関数の定義のみである.
対数関数の微分を考えるための準備として,\(x\)の微分は\(1\)であるため,
$$ \frac{{\rm d}}{{\rm d}x}x=1 (8)$$
である.ここで,\(x=\log t\)という\(x \rightarrow t\)の変数変換をする.(対数関数\(\log t\)の底は\(e\)である.)
\(x=\log t\)より\(t=e^x\)なので,ネイピア数の定義より次の微分方程式が成立している.
$$ \frac{{\rm d}t}{{\rm d}x}=t (9)$$
以上を踏まえて,(8)について,合成関数の微分を考えると,
\begin{align}
\frac{{\rm d}t}{{\rm d}x}\frac{\rm d}{{\rm d}t}\log t & = 1 \\
t\frac{{\rm d}}{{\rm d}t}\log t & = 1 \\
\therefore \frac{{\rm d}}{{\rm d}t}\log t & = \frac{1}{t} (10)
\end{align}
したがって,対数関数\(\log x\)の導関数は\( \frac{1}{x} \)であることを導出できた.
補足
微分方程式の解の関数形の考察のところをもう少し詳細に補足する.
微分方程式\((2)\)の一般解は任意定数を\(C\)とした,
$$ f(x)=Ce^x (11)$$
であるが,これをもとに変形しても,ステートメントで\(f\)は指数関数と言っており\(C \neq 0\)であるので,任意定数は消去でき,ネイピア数の極限表示\((7)\)を示せる.
比例定数を一般的に\(k\)とした場合の微分方程式\((2)\)の解を考える.
$$ \frac{{\rm d}f}{{\rm d}x}=kf (12)$$
変数変換\(x \rightarrow \frac{t}{k}\)をすると,
\begin{align}
\frac{{\rm d}t}{{\rm d}x}\frac{{\rm d}f}{{\rm d}t} & = kf \\
k\frac{{\rm d}t}{{\rm d}x} & = kf \\
\frac{{\rm d}t}{{\rm d}x} & = f \\
\therefore f & = e^t \\
\therefore f & = e^{kx} (13)
\end{align}
このように解は\(e^kx\)となり,\(k= \log 3\)などとすると\(3^x\)となる.
つまり,適当な比例定数を設定することで,任意の底の指数関数を微分方程式\((2)\)の解にできる.
本文註釈
1)ここでは一次元運動で考えるために速度をスカラー量として扱った.
2)比例定数が1であるのは,適当な物体・媒質を選んだためである.本来の比例定数は,空気抵抗係数を物体の質量で割った値である.

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